福島原発事故の先行き不安が続く中、原発の是非が問われ始めていますが、かつて日本のエネルギー供給を担ってきた炭鉱で働く人々を描いてきた山本作兵衛さんの記録画が、ユネスコの「記憶遺産」として登録されるというビッグ・ニュースが飛び込んできました。「記憶遺産」にはフランスの手書き版「人権宣言」や「アンネの日記」などが登録されていますが、日本からは初めての快挙です。
山本作兵衛さんは7歳の頃から働き始め、福岡県の筑豊地方に数多くあった中小の炭鉱を渡り歩いて働いてきた根っからの炭坑労働者。63歳の時から次第に消えていく炭坑の姿を次代に伝えようと絵が描き始めた作兵衛さんは、92歳で亡くなるまで2千枚近くの絵を描いたと言われています。落盤やガス爆発などの危険にさらされた地の底での過酷な労働の様子から、結束の強かった炭坑長屋の人々の暮らしぶりに至るまで、画用紙に水彩で丹念に描いた作品群は未来に残す貴重な文化遺産です。
私もTBSで働いていた頃、ラジオ番組で作兵衛さんのお話と炭坑唄を聞きに伺ったことがあり、その時に1枚の絵を下さいました。ここに紹介する作品がそうですが、一月ほど前に棚の奥にしまってあったのが見つかったばかり。貴重な文化遺産、私蔵しておくのは勿体ないと思い、福岡県田川市にある石炭歴史博物館に保存を依頼しようと思っていた矢先のニュースでした。
余談ですが、昨年夏ジャンさんがワークショップ生による作品の中で炭坑節を使いましたが、その時に作兵衛さんの唄声に魅かれそれを使おうと試み、難しくて取り止めたということがありました。
エネルギー問題を真剣に考え直さなければならない今です。これまで日本のエネルギーの一端を支えてきた人達の苦闘の歴史をこの機会に知ろうとすることも大切なことと思います。(伊藤 孝)
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