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セッションハウス スタッフブログ 【スタッフより。】

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奪われた野にも春は来るか

先頃、在日朝鮮人作家の徐京植(ソキョンシク)さんから、1冊の分厚い写真集が送られてきた。題して「奪われた野にも春は来るか」。

この写真集は韓国の写真家・鄭周河氏が放射能禍にさらされた福島の地を訪れ、撮影した100枚の写真を収録したもの。ただページを開いて驚いたのは、6枚を除いて写真の中には人影はなく、美しい森や花畑、夕日もまばゆい海の景色などのネイチャー・フォトと見まがうものばかり。ところどころには津波で家がさらわれた後の土台が写っているのが、災害の爪痕を伺わせるだけである。被災の惨禍を撮った数多くの写真の衝撃的な映像と比べると、静かに何事かを語りかける黙示録とも言える風景が連なる写真集なのである。
奪われた野にも春は来るか_d0178431_038339.jpg
どうして鄭周河氏はこのような方法で福島を撮ったのであろうか。放射能は目にも見えない、匂いもしない怪物である。それを捉えるにはどうしたらよいのか、考え抜いた末の方法だったのだ。徐京植さんは同書の中の解説で、このような方法を「不在の表象」と評している。人の姿は不在なのだが、人々が生きてきた気配はある。そして、そこには写真には映らないが放射能が確実に存在しているのである。被災した地域にも今年も花が咲く春は巡ってきている。しかし、その春は決して前の年とは同じものではないのだ。徐さんは言う「センセーショナルな現場写真より、むしろ、事故の意味について深い省察へと導く作品」ではないかと。

地震と大津波、そして原発事故の記憶。それを決して風化させてはならないとの想いから、私達は明日の火曜日、2Fギャラリーで渡辺一枝さんのトークの会「福島の話を聞こう!」の2回目を開催、そして14日からは71名の作家が参加する「チャリティーアート展~神楽坂から福島へ」を開催する。

また、昨日は旧知のジャズ・ピアニスト板橋文夫さんが電話をかけてきて、美しい村にもかかわらず人が住むことがかなわなくなった飯館村をテーマにした曲でCDを作って販売し、義援金にしようと考えているとの話を聞かせてくれた。一人ひとりが自分に出来ることを考え、実践し始めているのだ。福井県の大飯原発の再稼働が強行されようとしている日本で脱原発への道は容易ではないけれど、こうした営為の積み重ねが力になっていくことを信じて活動していきたいと、改めて思う。(記:伊藤孝)
by sh_offstage | 2012-06-04 01:11 | Comments(0)
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