間歇的に雷雨に見舞われた昨日25日(水)、2Fギャラリーで渡辺一枝トークの会「福島の声を聞こう!」の11回目が開かれました。
今回ゲストスピーカーとして来ていただいたのは、福島県に準ずるほどの高い放射能を浴びた宮城県の丸森町筆甫(ひっぽ)地区でみそ造りをしている太田茂樹さん。太田さんは3回目のトークの会にも来ていただいた方ですが、今回は太田さんご夫妻が中心になって進めているNPO法人「そのつ森」による廃校となった中学校の校舎を利用した再生プロジェクトのことを中心に話していただきました。
三方を福島県に接する宮城県の南端にある丸森町。その山間にある人口700人余りの筆甫地区の自然と共生する人々に魅かれて、太田さんがいわゆるIターンで東京から移り住んだのは19年前のこと。そこで無農薬で米や大豆を栽培し、みそを造りて続けて「ひっぽの元気みそ」として人気を得るまでになっていました。そこを襲ったのが原発事故。しかし、ただ福島県ではないという杓子定規な決め方で、放射能測定など行政の対応が遅れに遅れ、東京電力からの損害補償もなく差別されてきました。そうした中で、太田さん達は自ら放射能測定をして安全な食品作りに取り組みながら、地域再生のための活動を始めたのです。
その一つが、原発事故の直後、隣接する福島県南相馬市から200人の避難民を迎えたことのある中学校の廃校舎を、地域の人達が寄り集う福祉と交流の拠点として活用していこうというプロジェクトでした。丸森町も「そのつ森」に校舎の無償提供を決め、風呂場や宿泊設備などの整備を進め、来春からはお年寄りが寄り集い、外からやって来る人達が宿泊して自然の中でさまざまな活動が出来る場にしていこうというのです。
原発事故の前は、豊かな自然に魅せられて太田さんのように筆甫にIターンで移住してくる若者が多かったそうですが、事故後集落を後にする人が相次いだといいます。しかし、太田さんは「世話になった集落の人達を残して去る訳にはゆかぬ」と、家族ともども筆甫に残ることを決意、地域再生のための活動を始めたのでした。他所から来た者(太田さんはマージナルな存在と言います)は、昔からのしがらみにとらわれることがなく自由に発言出来るし、長いこと住んでいるので集落の人も信頼して耳を傾けてくれる。移住者ならではの役割をフルに生かして活動しているのです。
そうした活動の様子を生き生きと語って下さった太田さんにとって最近嬉しかったことは、今年の夏若いカップルが筆甫に移住してくることが分かったこと、それを語る太田さんの笑顔は輝いていました。筆甫だけでなく過疎化にさらされた所は全国各地に広がっています。それに抗してコミュニティの再生と自生を図る太田さんのような活動が各地に生れてくることが、ひいてはグローバル化にさらされた日本のあり様を見つめ直し、救うことになっていくのではないか、太田さんのお話を聞きながら思ったことでした。
被災地に通う中で知り合った方をゲストスピーカーとして招き続けている渡辺一枝さんは、トークの会の次の日から再び、南相馬市や飯館村に行かれるとのこと、その活発な取り組みには頭が下がります。次回は8月31日に予定しています。(記:伊藤孝)