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先頃、私はソウルで開かれたダンスの国際交流をめぐるシンポジウムに招かれ、韓国に行ってきました。この催しはセッションハウスとスモールシアター・ネットワークを結んでいるチュム・アート・センターの李哲珍(イ・チョルジン)さんが主催したもので、韓国や香港のダンス関係者が参加、日本からは横浜赤レンガ倉庫の中富勝裕さんと私が参加。私はその中で国際交流における小劇場の持つフェレキシビルな可能性について、ダンスプログラムを紹介しながら報告をしてきました。
そして私に対して代表質問をしたのは何と、2日前にセッションハウスの「ダンスブリッジ・インターナショナル」で踊ってきたばかりのユ・ホシク君でした。
彼はダンサーや振付家である一方で、今年8月マドモアゼル・シネマが参加したGwang Jin International Summer Dance Festival を主宰するオルガナイザーでもあるのです。彼はアジアに軸足を置いたネットワークの構築を目指していて、その点についての意見を求められ、私にも共感できる考えとして賛成の意を表してきました。
[ シンポジウムを主催した李哲珍さん]
そして次の日、大学路(テハンロー)にあるイ・チョルジンさんがプロデュースするスンキョン小劇場で伝統舞踊を含む9作品のショーケースを、夜にはドリーム・ファクトリーで今年の日韓デュオ・フェスに日本陣のトップをきって出演する今津雅晴&長谷川寧組が韓国の3組と競演するオープニングの舞台を観覧。今津組、韓国勢ともどもその熱演に観客席からは掛け声もかかる賑やかな公演となりました。
[ 1回目の公演を終えた今津雅晴君と長谷川寧君]
私事になりますが、ソウルは私が生まれ5歳まで過ごした所です。当時は日本の植民地支配下で京城と呼ばれていました。しかし日本の敗戦後物見遊山で韓国に気楽に行く気持ちにはなれず、今回72年ぶりの訪問となったのでした。幼時であったため覚えている風景はソウル駅の駅舎と南大門ぐらい。ダンス関係のワークを終えた次の日、ソウル駅近くの当時住んでいたと思われる地域を訪ねてみると、付近には高層ビルが林立しているのとは対照的に、急坂の路地が入り組み民家と小さな工場のある一角で、お年寄りの姿が目につく町でした。
また日本に帰る日には板門店ツアーに参加、1953
年の朝鮮戦争(韓国では韓国戦争と言っている)の休戦以来、南北が対峙する最前線の一角を見てきました。カメラ撮影などに禁止事項も多く緊迫感のある訪問で、賑わうソウルなどの平和な光景の一方で、この国が今なお戦時体制下にあることを改めて痛感させられました。南北軍事停戦委員会が開かれる建物の中は見学可能で、この中ではテーブルをはさんで北側に足を踏み入れることが出来、複雑な想いに捉われました。
南北の境界を越えた真向かいには北朝鮮側から南側を観察する建物・板門閣があり、私が訪れたその日、その建物のベランダには大勢の人(男性ばかり)が南側を注視しているのに驚かされました。その人たちはどんな人達であり、南側にいる私達をどのような想いで見ていたのか、近くにいながら手を振ることも声をかけあうことも禁じられた不条理を感じさせられる光景でした。
テコンドウの構えで45分間も立ちっぱなしで警護する板門店など非武装地帯の兵士は、徴兵制の韓国軍の中では最も緊張の強いられる勤務だとのこと。21ヶ月という徴兵は韓国の若者ですが、それと対峙する北朝鮮は世界で最長の10年という徴兵期間だというのには愕然とさせられました。韓国ではメダリストのスポーツ選手や大きな受賞歴のあるダンサーらには兵役免除があるというものの、南北ともに多くの若者が貴重な青春の時間を奪われているのです。
韓国が今なおこうした厳しい状況下にあることを意識の片隅に置いて、お付き合いしていくことも大切なことです。現在、残念なことに日本と韓国の関係は政治的には歴史認識の問題などもあってぎくしゃくとしていますが、歴史的事実は事実として認めながら、ダンスや音楽でもそうですが、いずれの分野においてもフェイス・トゥー・フェイスの関係を深めていくことが大切なことを改めて痛感させられた韓国訪問でした。(記:伊藤孝)
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