秋の到来とともに、セッションハウスのギャラリー【ガーデン】でも、さまざまな展覧会が相次ぎます。
もう終わってしまいましたが、9月4日から13日までは、戦争中に「日本軍の慰安婦」にさせられ、過酷な生涯を送ってきたお年寄りを撮り続けている韓国のフォトグラファー安世鴻(アンセホン)さんの写真展「重重消せない痕跡」が開かれ、連日大勢の方達が訪れ静かに写真と向き合う日々となりました。
安さんは韓国のみならず、中国やフィリピン、インドネシア、東チモールなどにひっそりと暮らしている方達を訪ね歩き、たんねんにお話を聞いて撮影したカラー写真の数々は、彼女達の苦難の歴史と現在の暮らしぶりを克明に伝える迫力のあるものでした。
いわゆる「慰安婦問題」は日韓の間で争点になっているものですが、安さんは韓国だけでなく日本軍が占領したアジア各地の女性達にも目を向け撮影していることが特徴的です。そしてまた会期中にはゲストに女性を招いてギャラリートークが2回にわたって開かれ、フェミニズムの視点から性の問題が男性主体でとらえられていることも論じられ、すぐれて今日的な問題でもあることが浮き彫りになったことも特記されていいでしょう。安さんも「元慰安婦」の方に会って話を聞いて、「女性をこんなに酷い境遇に追い込んだのは、男性として恥ずかしいことだ」と思い、それが動機となって写真を撮り始めたと語っています。
戦争責任や植民地責任などの歴史認識のことや、男女の性のあり方、人が生きるといことなど、さまざまなことを考えさせられる写真展でした。
続いて現在開かれている工藤洋子さんの個展は、がらりと変わって静かに作品と対峙すると、さまざまな風景が見えてくる展覧会です。
工藤さんは岩絵の具、水干絵具、墨など日本画の素材を用いて、制作中に生れる偶然的な表情や質感を用いた抽象画で、独自の世界を作り出している1983年生まれの若手のホープです。
抽象画とはいえ、住まいのある奥多摩の山並みや川の流れを見ている時の空気感などを大切にして描いているということで、一つ一つの作品をじっと見ていると、抽象・具象の域を越えてさまざまな風景が見えてくる感があり、楽しい時間が流れていきます。
この展覧会は23日(水)まで開かれています。秋のひととき、工藤さんの作品と対話しに是非ガーデンにお立ち寄り下さい。(記:伊藤孝)